「農業と経済」という雑誌は、農業経済学を学ぶ人にとってとても面白い雑誌の一つです。
もちろん、研究者のみならず、実際の農家の方々も自分の経営に落とし込んで
読むことができるかと思います
ただ、やはりマクロな議論が多いので、
実地で役立つ事は少ないので、やはり農業経済や農業経営に
本当に興味のある人ぐらいしか読まないかもしれません。
さて、今回から
農業×書評というカテゴリで、この農業と経済を読み解いてみます。
なんか、難しいなと思っている人も
この記事をみて読み進めてもらえると出版社も僕も農業界もwin-win-winです。笑
では、今回取り扱うのは、2014年4月号の
『持続的資源利用と農業貿易自由化』
著:加賀爪 優
についてです。
この論文の説明文には
資源や環境という視点で「自由貿易」を見た時、世界の「利益」はどう見えるのか。
輸入に頼る日本の食は、世界に対してどれだけ負担を強いているのか。農産物の自由化の影響を考える。
とあります。それでは読み進めてみましょう。
これは、3つの章に別れてます。
1 貿易利益の公正配分と資源環境
2 海外直接投資による現地資源活用と産業内貿易
3 バーチャル資源の持続的利用と環境問題
(1) フード・マイレージ
(2) バイオ燃料と食料資源
(3) BSE(狂牛病)と貿易自由化
1 貿易利益の公正配分と資源環境
ここでは、自由貿易の話を、比較優位論に基づいて話が進んでいます。
比較優位論はとても有名な理論でありながら結構勘違いをしている人がいます。
とりあえず、合理的に交換をする事で、お互いwin-winの状況になるというものですね。
しかし、このwin-winのゲームが自由貿易では起こっていないというのが、
ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ教授の言うところで、
実はゼロザムゲームだと主張しています。
それは、つまり、
先進国と途上国が、自由貿易から得られる利益は双方あるが、
その課程における環境への負荷については、途上国の方が多くなっている。
したがって、その結果として、いくら経済的に豊かになっても環境への負荷の指数と照らし合わせると
マイナスになっている可能性があるというのだ。
これが、先進国×途上国の間での分配の不公正の問題であり、
これではwin-winになっていないというのです。
これに加えて、先進国×先進国においても自由貿易を巡って
色々な議論がされている。
最近のFTAやTPPの流れもあるように、先進国同士(先進国×途上国も)でも
お互いの思惑をもって、相手の邪魔をするような動きもあるのですが、
それでも比較優位をもって自由貿易は行われています。
そこで、顕示比較有為指数(RCA)というのが持ち出されます。
これは、日本の車製品で例えると、
「世界の輸出に対する車の輸出の割合」における、「日本の輸出総額の車の輸出の割合」になります。
簡単な式にすると
「RCA係数=日本の車の輸出/日本の全輸出÷車の世界の輸出/世界の全輸出」になります。
つまり、RCA係数がある国に対して大きいと、輸出している意味が見出せている=比較優位になっているということです。
これでも分かりづらいので(笑)、本当に簡略化すると
日本の車のRCAが中国に対して大きいと、車を輸出するだけのことはあるということです。
このようにして、食料農産物においても相互貿易を通じて、貿易の拡大をしていけばよいのです。
ここで、僕が思った事というのは、
RCAというのは、今あるマクロの世界の結果論の数字にすぎない、ということです。
つまり、下手な貿易を推奨しまくって、多くの特定の財が輸出入してもRCAは高まるのです。
なので、このRCAを持ち出すには、各国もしくは各企業が合理的に動いているという前提が必要です。
比較優位論の基となるリカードの理論もこの合理的な動きというのが前提になっていますし、
各企業も利益が第一優先で動いていますのでとりあえず合理的だと思いますが、
各国となると、必ずしも全てが合理的に動いているとは思えません。これがRCAまたは比較優位論の弱さでもあると思います。
このようにして1企業から1国を飛び越えて、世界各国がやり取りを自由に行うようになった貿易においては
日本の食料自給率向上という目標は本当にナンセンスですね。
筆者も
アジア太平洋地域全体としての自給率を高めていくことで
食料安全保障に対処することが肝要である
と、述べています。この文を切り取ると、
筆者は、自由貿易について賛成の立場をとっていると思って良いでしょう。
2 海外直接投資による現地資源活用と産業内貿易
ここでは、海外直接投資(FDI)が国内農業を発展させるのではないかと投げかけている。
それは、農業分野にしても今や品種改良を日本で行い、海外にその種を持ち込み
海外で生産を行い→日本へ持ってくる。というような
工業(農業)間分業が行われている。
国と国との国際分業の時代は終わり、もはや一つの産業をグローバルに構築しているのが現状だ。
こうした流れは、輸入の保護だけではなく、攻める農業!へと繋がるというのは確かに納得だ。
商社の働きぶりも自分はもの凄いと感じている。
中国がレアアースの輸出を規制した時に、動いたのは国ではなく各商社なのだ。
そのチャネルをオーストラリアにまで引っぱり、安定した供給を行ってくれたのだ。
こうした動きをもっと勧めていけば、農作物の国内自給なんていうみみっちい議論もしないで済むのにな。とも思う。
3 バーチャル資源の持続的利用と環境問題
最後に、結論のような章である。ここでは多くのヒントがちりばめてあるので、それをまとめる。
・現在の日本で消費している穀物を日本でつくるとなると、日本列島の約2.5倍の国土が必要である。
→日本で100%の自給はそもそも無理だからね!
・自由貿易では、バーチャル・ランド(ウォーター)の概念より、世界資源の循環の負荷がどっかでかかっている。
→自由貿易と同時に資源利用対策を各国でやっても無理がある!
→それでも一応は効率的に資源は利用されているのだ。。。
・資源や原材料の切り売りでしか外貨を稼げない途上国への資源略奪は免れない
結論
地球環境保全の観点から、林産物の貿易が適度に規制されるべき
このような結論に至るのが、この章であるが、それを裏付ける為に
以下の3つの観点を紹介している。
(1) フード・マイレージ
日本は色々な国から色々なものを輸入している。それはつまり食料輸入のマーケットの開放であり、
その分、化石燃料等を浪費しているので、環境に余計な負荷を課している。
→地産地消等に努め、自給率を高める事が望まれる。
(2) バイオ燃料と食料資源
とりあえず、トウモロコシは地力をとても使う作物なので
土地に窒素(人間が使う化合物)が溜まりやすくなってしまい、環境に悪影響。
なので、バイオ燃料というのは環境のためのものと言っているが、実は本末転倒なのでは?
というのも、筆者が述べたい点であろう。
(3) BSE(狂牛病)と貿易自由化
これも狂牛病が引き起こされたのは、加熱処理における活性プリオンが十分でなかった事が原因としている。十分に加熱処理ができなかったのは、オイルショックによって、加熱加減をややケチったからである。これが狂牛病を引き起こし、そもそもこんなに大量に肉を作らなくてはならないのは、貿易の自由化が伴っているからだ。と、述べている。
ということで、本当の結論!
過度のグローバル化が持続的資源利用を脅かす事態となっている
らしいのだが、なんとも切れ味の悪い終わり方である。
筆者は、自由貿易には賛成の立場かと思っていたが、要するに
"自由化は必要なのかもしれないが、行き過ぎるとだめだよ"
と言っていて、勝手にジレンマに陥られてもな、と思ってしまった。
まぁ、農業経済学は特に色々な人間関係もあるので
この雑誌型の「農業と経済」には、自分の論文の保険と弁明がなされていることが多いのだ。(と思うw)
というわけで、
『持続的資源利用と農業貿易自由化』
というテーマについて終えますね。
では!
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