農業と経済4月の「農業会計からビジネス感覚を磨く」について読んでみた。
副題は
厳しい状況の日本農業にあって、将来を担う経営体「農企業」が注目されている。その「農企業」の経営戦略の特徴とは何か。会計学は多様で複雑な動態にどう対応していくのか。
ということで、農業企業を中心とした体系についてまとめられていた。
いやしかし、本当に「農業と経済 4月号」はここ最近の農業と経済の中でも、とても良い。目新しい研究が載っているというわけではなく、これまでの農業経済において議論されてきた事を、分かりやすくまとめている。
さて、本題に入ろう。
まず、「農企業」に期待される効果が7つあげられていた。
- リーディングファームとして(先進的・先駆的)
- 人材育成としての場
- 技術普及等や社会的貢献活動
- 付加価値の増大効果
- 地域雇用
- 地域経済活性化
- 地域資源の保全
これが、農企業に与えられた使命もしくは役割と言える。
また、ひとえに農企業といっても多くの種類が存在し
- 伝統的な家族農業経営を基にしたもの
- 新たな農産物集出荷販売事業体(例:らでぃっしゅぼーや等)
- 食・農関連企業や農外企業、生活協同組合等が中核となったもの
この3つにまとめられていた。
確かに、日本の農企業はだいたいこの3つに収まるであろう。
ここで、「農企業」経営体における経営戦略について書いてあるが、
ひとえに、戦略と言っても色々な解釈の仕方がされている。
ここで、戦略とは
一定のガバナンス下にある経営体が持つ、将来に向けての方向性や目標の達成に資する資源の望ましい「あり様」とその利活用方法
と定義されている。
この時、農企業が経営戦略を考える際に考慮すべきは
- マーケット(ターゲット)
- 組織・リソース(内的環境)
- 理念
- 外部委託(外部環境)
- 社会的な外部との繋がり
この5つに集約されるようだ。
また、この農企業経営体における経営戦略の特徴として
- 農業の特質
- 生産・経営に関する資源
- 外部環境・条件
- 1〜3を踏まえて経営戦略の多様性
の4つが相互に関係しあって、多様な戦術の有り様が決定づけられるのだ(図)。
戦略と戦術の意味は違うので、詳しくは本書を。
戦略は、戦術よりも一段階抽象的な概念だと思ってもらえばいい。
しかしながら、農企業の経営体を統率する時に、外部環境の影響が大きい。
それは
・集落ガバナンス
・ファミリー・ガバナンス
の二つが挙げられる。
この集落ガバナンスが他産業にない農業の特質の一つである。
農業に詳しい方は分かると思うが、
農業は土地に根ざした産業である。故に、その土地を取り巻く環境やそのステークホルダーと、どのようにうまくやっていくかを考えなければならない。つまり、それらステークホルダーを考慮しないで、農業をしてしまうと最悪には村八分にされてしまう。これは農業をやって行く上では死を意味する。
ここから、それらのステークホルダーに対する説明責任をどのように果たして行くのかも重要事項の一つとして考えられており
- 経済的パフォーマンス
- 環境パフォーマンス
- 社会的パフォーマンス
のトリプルボトムラインが、農業会計領域における説明責任の対象となるようだ。
ここで、農業会計における、農業と会計のジレンマも書かれている。
農業はとても不確定要素(天気に左右される。一律の作物は育たない。生産期間が長期)が多すぎて、会計(帳簿をつけるなど)といった業務まで手が回らないことが多い。なので、会計業務というのはいわば、生産向上・説明責任を果たす為の手段ではあるが、それすらも難しい状況なのだ。このように複雑な性質をもっているのが、農業会計なのである。
これより、農業会計学の領域において、
多様性 と 複雑性 を併せ持つ事が求められ、一般会計学領域との大きな差であるとしている。
著者は、これにより
攻めの農業 と 守りの農業 とのバランスをよくとって、農業の維持と発展を目指すならば、それらの多様性と複雑性をよく考慮した上で考えなければならないと最後は締めくくっている。
ということで、以上が、農業会計学からみた農業である。
始めの方は、農企業とはでかい括りなのかと思っていたが、農企業は家族経営のような小さなものまで含んでいるようだ。そうすると、父ちゃん、母ちゃん、息子の3人でやっている農企業においても、その中におけるガバナンスをしっかりやっていこうという主張も取れる分けで、そんなこときちんとやってる家族なんてそんないねーだろ。というツッコミを入れつつも、しかしながら、そういう事ができない農企業は去れ!とも言えるのではなかろうか。
しかし、
息子「父ちゃんのやっていることは、環境パフォーマンスがよくないよ!」
父ちゃん「息子よ、お前こそ、社会的パフォーマンスを果たしてないじゃないか」
なんて議論が起こる事を本当に想定しているのだろうか。
とまぁ、感想としては、農業会計の対象をもっと明確にしないと、実際の事象に当てはめるのは難しいかなと感じた。もしくは、農業会計を場合分けし、ゆるい農業会計をつくらないと小さい農家、小さい農企業には対処できないようにも感じた。
・参考文献
参考文献の一つがこちらの文献である
より理解を深めるならば、この文献を読むと良いかと思われる。
本記事に使用した図も、こちらから引用させていただいた。
他の論文も面白いものがあったが、あまり書きすぎると著作権的にアウトなような気がするので、1冊の本で3〜4本程度の農業と経済の書評を書いていきたい。
本書の副題が「農林経済学を再定義する」というように、これまでの農業経済の議論を振り返ってみよう!という感じが強い。これから農業経済を学ぶに当たり、とりあえずの1冊になるかと思われる。
最後に、
表題に、書評と書いてあるが、ここで言う書評とは、感想文に近いので、
学術的な感じの書評とは捉えないで、軽い気持で読んでほしい。